基本理念

 科学技術立国日本を支え,また世界をリードする工業技術力を堅持するために,創造力豊かな技術者・研究者を育てることはわが国の教育機関の重大な責務です.人材育成は教育の崇高な目的であり,最終学府としての大学の教育は高度技術社会への接点機関として重要な役割を背負っています.ともすれば,20世紀の教育が知識の修得に重点をおいてきたと言われますが,21世紀にはばたく技術者は変化する社会情勢を柔軟にとり入れ,創造的な思考のできる能力を持たなければなりません.
 そこで,徳島大学理工学部では,科学技術が人類に及ぼす影響について強い責任をもつ自律的技術者を育成することを掲げ,工学技術者を養成する立場から次の4項目を教育の基本理念として掲げています.
(1) 豊かな人格と教養,および自発的意欲の育成
(2) 工学の基礎知識による分析力と探求力の育成
(3) 専門の基礎知識による問題解決力と表現力の育成
(4) 社会の変化に柔軟に対応できる自律的応用力と創造力の育成
 工学は自然界の原理に基づいて社会に有用なものづくりをする学問であり,理工学部ではそのような能力を持つ人材の育成に努めています.その中でも,機械工学の活躍分野は非常に多岐にわたっており,社会活動の基盤技術を担っています.ここで言う機械工学とは,機械システムを考案・設計・製作し,それを作動させ,また管理・評価するために必要な学問であると定義され,また,機械システムとは,社会の中で人間が発揮する能力・行為を,人間に代わって,あるいは人間と共に実現するツール・ソフトウェア・装置およびそれらの組み合せの総称を指します.
 世界の技術は日々急速な発展を遂げています.そのような中でグローバルな活躍をするためにはコミュニケーションが大切になります.また,個々の技術だけでなく社会全体を見とおす能力がなければ健全な社会を創出することができません.したがって,わが国の工業技術力を維持し発展させ,そして世界をリードする機械技術者としては,社会人としての健全な使命感,国内外で通用するコミュニケーション能力,急激な技術革新に対応できる生涯学習能力,広範囲にわたる科学的・専門的知識と技術の修得,その応用による問題解決能力,さらには,独創性豊かな研究・開発能力などが要求されています.
 このような広範囲の教育分野を効率的に学習できるように,本学科では学部4年間と大学院2年間を一貫した教育課程と位置付け,学部4年間では工学および機械工学の基礎となる知識や技術を習熟させることに重点を置いています.そのために,機械科学コースの教育プログラムとしては,上記の4項目を指針として「機械工学を通じて人類の幸福に貢献できる人材を養成すること」を教育理念としています.

教育目的

Ⅰ.数学,自然科学,情報技術および機械工学に関する基礎となる知識と技術を習得させること
  (工学に関する基礎知識および基礎技術)
Ⅱ.機械工学に関する知識と技術および情報技術を応用して,機械システムを設計・開発・分析し,
  新しい「もの」を創造する能力を育成すること
  (機械工学に関する基礎知識,応用力および創造能力)
Ⅲ.日本語による論理的な記述,発表,討論などのコミュニケーション能力を有し,
  国際的に通用するコミュニケーション基礎能力を育成すること
  (コミュニケーション能力)
Ⅳ.社会や技術の変化に対応して,自律的・継続的に学習できる生涯自己学習能力を育成すること
  (自律的・継続的学習能力)
Ⅴ.豊かな人格と教養に基づき,機械工学に関わる技術が社会や環境に及ぼす影響を理解し,
  技術者倫理や自然環境の保全などを考慮して行動する能力を育成すること
  (技術者としての社会的責任)

学習・教育目標

 教育目的を実現するために,本学科では次の9項目の教育目標を定めて教育を行ないます.
(A) 数学,自然科学および情報技術の知識を習得させ,機械システムの分析・統合に応用できる能力を育成すること
 (1) 線形代数学,微分・積分学,確率・統計学を中心とする数学の知識を習得すること
 (2) 物理学,特に力学を中心とする自然科学の基礎知識を習得すること
 (3) インターネットを活用して情報の収集と整理が行なえること
(B) 機械工学の主要分野および関連分野の知識と技術を習得すること
 (1) 材料の知識および材料の力学を理解習得すること
 (2) 機構学および機械力学に関する知識を理解習得すること
 (3) 状態量と状態変化を理解し,エネルギーと流れの法則を理解習得すること
 (4) 情報処理技術を習得し,それを機械工学に関わる計測・制御に応用できること
 (5) 製図法,機械要素,設計法,加工法を習得し,機械システムの設計・開発に応用できること
(C) 機械工学の分野において実験を計画・遂行し,その結果を科学的に分析・考察する能力を育成すること
 (1) 与えられた時間,実験装置,実験・実験材料,情報,予算等の制約の下で,自ら実験計画をたて,
     それに基づいて実験・実習を遂行する能力をつけること
 (2) 実験,実習,演習などを通して問題点を把握し,結果を分析・考察して,その結果を解決する能力をつけること
 (3)実験や実習の目的,方法,結果,考察などを,論理的にレポートや卒業論文として作成する能力をつけること
(D) 機械システムを創造・製作する能力を育成すること
 (1) 機械工学の基礎知識を統合し,種々の科学技術・情報を利用して社会で要求される「もの」を創造する能力をつけること
(E) 機械工学の専門的内容を日本語で論理的に記述,発表,討論する能力を育成すること
 (1) 自ら考えたことばで論理的な文章を記述できること
 (2) 自らの考えを構築し,それを効果的に口頭発表できる能力を持つこと
 (3) 他人の発表を理解し,討論する能力を持つこと
 (4) グループ作業の中でチームワークに参加し,また,得意な分野でリーダーシップをとる能力をつけること
(F) 国際的に通用するコミュニケーション基礎能力を育成すること
 (1) 機械工学に関連する英語の記述を読解する能力を持つこと
 (2) 英語による基礎的な記述能力および口頭発表能力を持つこと
 (3) グローバル化の社会の中で情報収集や情報交換ができる能力をつけること
(G) 自律的学習能力および継続的学習能力を育成すること
 (1) 講義,実験,実習,演習を通して,自主的,継続的に学習する習慣をつけること
 (2) 卒業研究を通して,自ら問題を考え,実験を計画・実行して,その結果をまとめ考察する能力を育成すること
 (3) 社会の技術の変化に対応して,新たな知識や情報を収集・獲得し,それを応用する能力をつけること
(H) 機械システムの設計に関連して,倫理的,社会的,経済的および安全上の考察を行うための能力を育成すること
 (1) 機械技術の開発が社会および自然に及ぼす影響や効果を理解し,高い倫理観を持って
     機械システムを設計する能力をつけること
 (2) 社会に有用な「もの」および「考え方」を経済的観点および安全性の観点から設計・製作する能力をつけること
(I) 自然,人間,社会のしくみを理解し,環境保全などについて地球的視点から多面的に物事を考え,
    また,それを 機械工学と有機的に結びつける能力を育成すること
 (1) 豊かな教養を身につけ,機械技術のみでなく,他領域の問題も併せて総合的に考える能力をつけること
 (2) 文化や価値観を多面的に考える能力を持つこと

カリキュラム編成

 機械科学コースでは母体である徳島大学理工学部の教育理念・教育目標を受けて,その教育理念を「機械工学を通じて人類の幸福に貢献できる人材を育成することにある」と定めています.またそれを達成するために,機械科学コースの教育プログラムにおいては,(Ⅰ) 工学に関する基礎知識および基礎技術,(Ⅱ) 機械工学に対する応用力と創造能力,(Ⅲ) コミュニケーション能力,(Ⅳ) 継続的・自律的学習能力,(Ⅴ) 技術者としての社会的責任の5項目を教育目的に掲げ,これらに対して,前頁の学習・教育目標[(A)~(I)]を設定しています.これらの目標を達成させるために本プログラムが準備した教育の内容をその特長とともに以下に説明します.

(0) 導入教育
 5つの教育目標に入る前の段階として,入学後いち早く工学への関心を持たせるために,1年前期で機械工作実習,エンジンおよびモーターの分解・組立,材料強度試験などを体験させ,機械工学に対する動機付けを与えて,以後の学習への意欲付けを涵養します.また,自らの意思と発想により問題解決の方法や実現手段を学ぶことを目的として,少人数グループでの小型構造物の設計・製作を行ない,報告書の書き方,公開競技,報告会などによるプレゼンテーション能力の基礎を育成します.

(Ⅰ) 工学に関する基礎知識および基礎技術
・ 工学基礎:工学に対して数学と物理は基礎になる学問です.したがって,1年前期に,機械工学の専門科目を履修する上で最低限必要とする基本的な数学および物理の概念を,習熟度別に少人数のグループに分けてゼミ形式の教育を行ないます.また1年後期にも,引き続き物理現象を工学的な視点から解析できる能力を養うため,実学としての数学・物理の基礎を演習により体験します.
・情報教育(コンピュータ教育):全学共通教育の情報リテラシー教育に続いて,C言語を基本としたコンピュータソフトを演習形式で習熟させるとともに,CADによる図面製作能力,情報の収集および発信能力を育成し,コンピュータを利用して工学問題を解析するために必要な数値解析手法を習得します.

(Ⅱ) 機械工学に対する基礎知識,応用力および創造能力
・ 機械工学専門分野:材料と材料力学,機構学と機械力学,エネルギーと流れなどの機械工学の主用分野の科目では,講義に加えて演習を付随させ,知識の理解を高めさせるとともにそれを応用できる能力の育成に努めます.また,機械製図の基礎知識に基づいて機械要素や加工法を講義科目で習得し,設計製図の実習につなげて機械システムの設計・開発に応用できる能力を養います.
・科学的分析能力:実験や実習を通じて問題点の把握に努めたりその解決能力をつけることが大切です.事実を観察して物事の本質を見ぬく力とそれを科学的に分析する能力を育成することに努めます.
・創造能力:幅広い知識を統合し,また,科学技術や情報を利用して,社会の要求する有用な「もの」や「考え方」を創造する能力の育成が大学教育の主要な目的の一つです。これには教育プログラムを通して一貫した思想に基づいた教育の方法を考え出すことが必要です.「創造」には,獲得された知識が活きた知識になること,また,新しい問題を考えるときにその知識が自在に結び合わさることが大切であり,そのような能力を育成することが最大の目標です.

(Ⅲ) コミュニケーション能力
プレゼンテーション能力:創成科目を中心に初年時からプレゼンテーションの機会を設け,卒業研究では中間報告を含めてプレゼンテーションの実施と評価を行ない,継続的な実践により表現能力を高めます.また,これらの実施でプレゼンテーションの内容と技術の評価を行ない,学生自らが評価者として参加する方法で,自分自身の表現能力を高揚させていくことをねらっています.
・ 英語一貫教育:1年および2年で開講される一般教養科目の英語および初修外国語の履修に続いて,3年次前期・後期に専門分野の立場から工業英語の修得を目的とし,機械技術に必要な英語による表現力を高めるため,工業英語の読み方および技術レポートの書き方を養成します.また,課題探求を行なって報告会を開き,英語によるプレゼンテーション能力の涵養にも努めます.また,3年後期にはグローバルなテクニカルコミュニケーションの技術の修得のため,外国人講師による授業を行なってリスニングとスピーキングの技術の修得に努めます.また,3年後期には5~6名の少人数で機械技術論文の講読を行うほか,4年次の卒業研究では海外の研究論文の講読による専門的研究課題についての理解力を養います.

(Ⅳ) 自律的・継続的学習能力
 主要な講義科目に演習を付随させて自主的な学習能力をつけ,実験・実習を通して自らが主体的に学習に取り組む姿勢を養うほか,卒業研究を通じて自ら研究を企画し実施することにより,定められた計画にしたがって継続的に行動する能力を育成します.

(Ⅴ) 技術者としての社会的責任
 技術者が社会に果たすべき役割を自分で考えたり,技術者としての社会への役割および機械技術が社会に果たすべき責任を認識させるため,技術者を取り巻く今日の社会環境を入学直後の1年前期に学び,機械技術者を目指す者が自律的な学生生活を構築するための素養と能力を養います.さらに,社会に巣立つ前の4年前期には,技術者としての倫理観と行動規範を持って多様化した社会の中で自分の技術を活かす能力を,理論と実習の形式で育成します.

創成科目

 創造性豊かな技術者を育成する手法として,機械科学コースでは下表の創成科目群を用意しています.創成科目とは一つの解しかない問題に対して解答させるという教育ではありません.一人ひとりが問題を発見し,知恵と情報を総動員し,新しい自分自身の解を見出す訓練を通して「自らを創成する」ことを目的としています.したがって,教員から学生への一方的な授業形態ではなく,学生自らが頭脳と手足を動かして自主的に考えや行動を起こす過程を経験することが基本になります.自律的に学習し,問題を開発し,また解決する創造的な能力を育成することが創成科目の目的なので,そのためには広く深い知識が必要です.したがって,一般の講義や演習の科目と有機的に連携させることが重要で,それなくして創造性は育成されません.また,下表に示すように,創造力のみでなく,情報収集・活用力,課題解決能力,グループ活動能力,プレゼンテーション能力なども創成科目が目指す重要な能力と位置付けています.
 創成科目にも段階があります.1年次は導入教育としての創成科目であり,学問への意欲を高揚させます.2年および3年次は創成の訓練を行なって活きた知識を獲得します.そして,4年次には総合創成としての卒業研究があり,知恵と技術を使って自己の創成を実践します.これらの創成科目を学ぶことによって,自らアクティブに考え行動する訓練を十分に身に付けることを要望します.

創成科目およびその目指す能力
学年・学期 科目名 創成科目が目指す能力
(a)(b)(c)(d)(e)
情報収集・
活用能力
創造能力課題解決
能力
グループ
活動能力
プレゼンテー
ション能力
1年前期機械科学実験1  
1年後期STEM演習  
1年後期基礎機械CAD製図   
2年前期デジタルエンジニアリング
2年後期機械科学実験2    
3年前期機械設計製図   
4年通年卒業研究

注 ◎:とくに重点を置く能力, ○:基本的に育つと考えられる能力, △:とくに重点は置かないが、この科目を学ぶ過程で身に付く能力

将来構想